皆さんは、SAPと聞いて頭にすぐ浮かんでくるのはERPパッケージ製品のことかと思います。確かに、ERPを導入するユーザ企業やSAPコンサルタントとしてはECCやS/4HANAを指すことが多いですが、その前にSAP社そのものについて見てみましょう。きっと、知らなかったことや考えていなかったこともあるはずです。
SAPの成り立ちを知ろう
SAPは、1972年にIBM社ドイツ法人出身の5人の起業家によって設立されました。彼らは、ITの世界を変えるだけでなく、企業のビジネスのやり方をも変えていこうという志を持って起業したのです。それがSAPです。正式名称は
Systemanalyse und Programmentwicklung ("System Analysis and Program Development")
というものです。
1973年に、彼らは財務会計システム(後にR/1と呼ばれる)を完成されました。その2年後には、購買管理、在庫管理や請求書照合が出来るようになっています。しかし、R/1というのはメジャーリリースとはみなされていないため、まだERPと呼ぶほどには至っていませんでした。
そして、1979年にメインフレーム技術にもとづいて標準ビジネスソフトウェアであるR/2を構築しました。"R"はリアルタイムを意味しており、当初からリアルタイム性を掲げ、そこからビジネスを加速させるという意気込みが感じられますね。
1992年には、クライアント・アプリケーション・データベースの処理を3層に分割する、いわゆる3層アーキテクチャの機能を活用したR/3が誕生しました。ここでは新しいグラフィカルインターフェースが採用され、ユーザの操作性や利便性も大幅に向上しました。
そして2004年、SAP NetWeaverという新しい統合アプリケーションプラットフォームを開発したことにより、アプリケーションとWebの統合が実現できるようになっていきます。ユーザは既存のWeb標準を用いてアプリケーションの構築をしたり、統合したりできるようになりました。いわゆるSOA(サービス指向アーキテクチャ)が採用されることになります。
ここでR/3という名称からSAP ERPに変更されています。ECCなどと呼ばれることもありますが、2019年現在ではSAP導入済み日本企業では主流となっています。
2015年には、既存のアプリケーションの設計を一新したS/4HANAがリリースされ、大容量メモリとマルチコアプロセッサの性能を活かし演算能力が格段に向上しています。
また、2008年のBusiness Objects社を含め、近年では他企業の買収や協業なども発表し、ERP事業のみの会社ではなく会社のビジョンを沿った事業統合により、ERP以外の事業による売上も伸ばしてきています。
SAPのビジョンと目的を確認しよう
SAPのビジョンと目的は、「Helping the world run better」です。「At SAP, our purpose is to help the world run better and improve people’s lives.」と続けており、ERPによって導入企業の顧客の最大化を実現することのみならず、世界的なリーダーとして経済的な成功を超えて人々の生活を向上させることを目的としています。SAPは「経済」「社会」「環境」の3つの具体例を挙げながら示しています。
経済的な影響
SAPは経済的な発展により、強い産業とインフラの発展を促進させることが出来るとしています。例えばデジタル化されていない金融業界全体の底上げを図ることで産業全体に寄与しようと考えています。また、大企業だけでなく小さな村の小売業の発展を支えています。
社会的な影響
健康分野、教育分野、公共の安全などに対しては、SAPのプラットフォームを活かして幅広いソリューションを提供しています。具体的には、ヘルスケアの分析や電子カルテなどのソリューションや公共交通機関のネットワーク分析のソリューションを提供しています。
環境的な影響
環境面に関しては、温室効果ガスの影響を鑑み、よりクリーンなエネルギーを効率的に生み出すための分析などソリューションを提供しています。イメージしやすいものとしては、畑に対して効率的に水やりをするために、水の浪費を抑え水不足が起こらないように制御するための分析などもおこなっています。
そのほか、国連が定める17のグローバル目標に寄与しています。すなわち、貧困のない世界、より健全な地球、そして公正で平和な社会を創造するという目的をもってコラボレーションを受け入れ革新することです。
SAPの事業はどんなものがある?
SAPの主な事業としては、ERP事業とERP以外の事業の2つに大きく分けられます。下図はSAPジャパンの公式ホームページに公開されている製品一群です。
ERP製品
SAPの成り立ちでも説明した、S/4HANAを始めとする基幹業務システムと呼ばれる製品です。SAP ERPの説明については別記事にて公開しますが、FI(財務会計), CO(管理会計), SD(販売管理), MM(在庫購買管理)などモジュールと呼ばれる要素から構成される、企業の基幹システムに対するライセンスフィーなどからの売上です。
導入した企業(ユーザ企業)にとっては、新規導入時費用以外にも導入後のライセンスフィー以外やITベンダーへの保守費用など安くはない金額を払ってメンテナンスして使い続けています。
ERP以外の製品
ERP以外においても、プラットフォームとしてSAP Cloudを提供したり、データ分析ツールであるBI製品を提供したり多岐にわたります。主要なSaaSには経費精算の「Concur(コンカー)」、人材管理の「SuccessFactors(サクセスファクター)」、調達管理の「SAP Ariba(アリバ)」などがあり、ERP以外の売上比率の方が高くなってきています。こちらについても別記事にて詳細は説明いたします。
SAPが関連する事業分野には何がある?
ビジョンと目的で説明したように関連する事業は多岐にわたります。企業の基幹システムだけではなく、また、ヨーロッパや北米以外にも全世界にて活用されています。
スポーツ・エンターテインメント業界向けクラウドソリューション「SAP Sports One(スポーツ・ワン)」が提供されていることが示されるように、スポーツ中継でSAPがスポンサーとなって協賛して盛り上げているのを見たことがある方も多いかもしれません。
銀行向けや保険業界向けソリューションなどの他にもCRMソリューションであるSAP C/4HANAも聞いたことがある方も多いでしょう。
SAPの将来はどうなるのか考えていこう
単なる基幹システムのERPパッケージベンダーではなく、様々な分野において価値を提供し続けるSAPによるこの革新の流れはしばらく続くことと思われます。むしろ時代に取り残されないことはもとより、時代をリードするような挑戦が今後も継続的に行われるはずです。
SAPコンサルタントとしては、1つのモジュールに完結していた働き方も変わっていき、マルチに活動し顧客に価値を提供していく流れにならざるを得ないところまで来ています。会計だけでなくロジスティクスにも精通したコンサルタント、ERPだけでなくクラウドのソリューションも幅広く活用できるコンサルタント、またはJavaと融合した技術を持ったコンサルタントなど、自分自身に強みを持つことであらゆることに貢献できるようになっていくでしょう。