SAP ERPはSAP社が開発したパッケージソフトのことです。SAPでは"R/3"(アールスリー)や"ECC"(イーシーシー)"S/4"(エスフォー)などと言われることはありますが、ここでは分かりやすくSAP ERPという言い方で説明いたします。

まずはERPとは何かを知ろう
ERPとは「Enterprise Resource Planning」のそれぞれの頭文字を取ったもので、日本語では「企業資源計画」と言います。ただ、企業資源計画と言われても何のことは分かりにくいので、こちらのように説明されることが一般的です。資源(リソース)はいわゆるヒト・モノ・カネの3つと、今では情報も合わせてひとくくりにされることが多いですね。
企業の経営資源を一元管理することによって業務プロセスの効率化を計ろうとする企業業務改善の概念
ここで大事なのが"一元管理することによって業務プロセスの効率化"という部分です。まず製造業を例に取って業務プロセスについて見ていきましょう。
製造業(メーカー)では、市場のニーズから商品を開発しますが、今年はどのくらい販売するのか(販売計画)、今の在庫はいくつあるのか(在庫管理)、そして今年はいくつ作るのか(生産計画)などの計画が数値で管理されます。その計画をもとに、販売管理、在庫管理、購買管理、生産管理、会計といった業務を回して日々ビジネスをおこなっています。
ERPという概念が出てくる前は、それぞれの業務に特化して最適化が図られており、例えば生産管理ではモノを作ること、販売管理ではモノを売ることに特化してシステムが作られていました。その結果生産管理では、在庫が1,000個ある状態で100個生産した場合に生産管理システムでは1,100個在庫がある一方、販売管理では、200個受注したので販売管理システムでは在庫は800個といった状況が発生します。同様のことが在庫管理にもあてはまります。
その結果、欠品であったり過剰在庫を抱えたりするリスクが高まります。在庫だけではなく、それらを管理するヒトの負荷も高まり、また、ミスも増えてきます。そこでERPが生まれました。
これらの業務データを一元管理し、各部門間の認識を合わせて企業全体の経営資源の最適化を図ることで市場での競争力を高めることが出来るようになります。先ほどの例ですと、得意先企業から商品を200個受注した時点で、生産管理システムでの使用可能な在庫数が800個になり、そこから商品を100個作った時には販売管理システムでの受注可能な在庫数が900個になります。結果として、過剰在庫や欠品のリスクが抑えられ、在庫数量が一定に保たれることになります。
ERPの市場規模を見てみよう
日本のERP業界全体の市場規模としては約1,000億円(パッケージライセンス費用)ほどと言われております。ただし、ERPと言っても企業が支払う費用はライセンス費用だけでなく、ITベンダーへの導入費用や保守費用のほかにも様々な費用があるので、あくまで参考程度にとどめるようにしましょう。
ERPのメリットとデメリットは?
上述したように、システムが全体最適化されているので業務プロセス間のシステムが統合されるなどメリットもありますが、もちろんデメリットもあります。ここでは代表的なメリットとデメリットを見ていきましょう。
メリット
システム間の整合性が取れている
業務プロセス間のシステムの整合性を取るために、各業務プロセスでは共通のコード(マスターと言います)が用いられます。例えば、ある商品の在庫を管理する場合、品目マスターというその商品の属性がまとめられた1つのコードを使って数量などが管理されています。それにより、販売管理においても同じコードで受注数量を管理し、生産管理においても同じコードで製品出来高を管理することが出来ます。もし、別々のコードで管理されている場合、双方のシステムに二重に入力する必要があり、作業量の増大やミスの増加などが起こりやすくなります。
システムの運用の負担が軽くなる
ERPではなく、全く別のソフトウェアを使って販売管理システムや生産管理システムが構築されている場合、メンテナンス費用もバラバラになり、またそれぞれのシステムの専門性を持った人材を集めるのにも苦労します。その点、ERPパッケージを使うことにより、これらの運用の負担が軽減されます。システムでは業務プロセスだけでなく、システム全体の監視やバックアップ処理など基盤系の仕組みも必要になります。ERPパッケージでは共通の土台が1つのシステムであるため管理がしやすくなるため、運用が楽になります。
デメリット
システム全体を考慮した設計が難しい
ERPは個別最適ではなく、全体最適を目指したソフトウェアであるため、システムを構築する際や機能拡張をする際に、業務プロセスを横断的に理解して取り組む必要があります。個別システムであれば、その業務だけで扱いやすいようにすれば良いので、全体を見なくとも維持運用することが出来ます。
すぐにシステム変更出来ない
1つの変更がシステム全体に与える影響は、個別システムよりも大きくなる傾向にあります。そのため、法令対応などのシステム変更があった場合、各業務プロセスで整合性を取りながら対応する必要があります。
キーマンが育ちにくい
ERPでは、システム全体を理解し業務影響を把握することが大事です。そのため、導入企業(ユーザ企業)の中でキーマンと呼ばれる方はプロジェクト開始から少しずつ時間をかけて全体感を把握していきます。しかし、その方が部署異動などでプロジェクトを外れる場合、全体を理解しているメンバーがいなくなり、業務の引継ぎを適切に実施しないとシステムの保守が難しくなります。
ERPパッケージはどんなものがある?
ERPパッケージはSAPだけが提供しているわけではありません。国内と海外を合わせると多種多様なものがあります。業界に特化した製品を提供したり、クラウドに強みを持っていたりとそれぞれの特色を活かした製品をさまざま提供しています。
外国製
外国製ERPの特徴は、どの国でも使えるようにシステムに網羅性があることが主な特徴です。多言語に対応していたり多通貨が使えるようになっていたり国を選ばず使えることが支持されています。
メモ
- SAP S/4 HANA
- Oracle ERP Cloud
- Microsoft Dynamics 365
- Infor ERP
日本製
日本製ERPの主な特徴は、日本の商習慣に合った製品が多いことです。また、国産ということでユーザとしては安心感があるのも支持される理由でしょう。
メモ
- GLOVIA
- GRANDIT
- OBIC7
- ERP freee
SAPのERPについて知ろう
SAPのERPは、ECC(イーシーシー)、SAP Business One(ビーワン)、Business ByDesign(ビーワイディー)、S/4 HANA(エスフォーハナ)など事業形態や規模に合わせて、大企業のみならず中小企業でも活用できるような製品群が用意されています。
SAPの成り立ちについては以下の記事をご覧下さい
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SAPのERPとはそもそも何だろう?
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市場シェア
SAPのERPと一言で言っても、いわゆる大企業向けとしてのERPであるS/4 HANAであったり、中堅中小規模むけであるSAP Business OneやクラウドERPとして近年注目があるSAP Business ByDesignなどがあったり、いくつも種類があります。
ERP市場全体のうち、SAPは20%ほどと言われています。OracleやMicrosoftなども同程度であり、1つのパッケージベンダーが突出して独占状態にあるというわけではなさそうです。
しかし、Forbes Global 2000社の約9割近くの企業がSAPユーザとなっており、ERP業界でも上位を走っていると言えるでしょう。
SAPの特徴
SAPの特徴を挙げる時によく言われるのは、"ベストプラクティス"です。ERPとは個別最適を目指すシステムではなく、全体最適を効率的に実現するものだと述べました。SAPのERPは、世界中の企業の全体最適の成功事例を集めて作られています。さまざまな業種・業態の業務プロセスのノウハウが取り込まれたもの、つまりそれが"ベストプラクティス"ということです。
他のERPパッケージとの違い
SAP ERPの特徴として挙げられるのがリアルタイムにデータが更新されるという点です。ERPと言ってもさまざまなものがありますが、中にはデータを入力してもそれが即時反映されずにバッチ処理で更新されるものがあります。
例えば、販売プロセスで在庫を100個出荷したとしましょう。SAPでは在庫情報から100個がすぐにマイナスになり、それが生産管理にもリアルタイムに連携されます。しかし、バッチ処理で更新するERPの場合、販売可能な在庫数量が翌朝にならないと分からないと言ったことが出てきます。全体最適を目指し、業務プロセスを効率化するためにはリアルタイム更新の方が好ましいと言えます。
また、世界中で使われているため、多通貨対応や多言語対応も可能ですし、各国の商習慣に合わせたソリューションを提供することが出来るのもポイントです。
まとめ
SAPのERPは全世界で使われており、ERPパッケージとしては広く一般的な存在となっています。SAPのERPとは何かを理解することは、SAPコンサルとしての土台となる部分です。他ERPパッケージとの違いやメリット・デメリットが語れるようになればコンサルとしての存在感も増してくるでしょう。